【国立大学法人千葉大学(UDCすみだ)のインタビューにご協力いただいた担当者様】
千葉大学工学研究院准教授/UDCすみだ副センター⻑ 鈴木弘樹様
UDCについて教えてください
UDC(Urban Design Center)は、2006年11月に柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)の創設とともに構想されたプラットフォームで、「公(行政など)・民(民間企業や地域住民)・学(大学)」が連携してまちづくりを行っています。従来の行政主導、住民主導、企業主導といった枠組みを超え、新しいまちづくりの仕組みを模索しています。
具体的な内容は、例えば未来ビジョンの検討や都市空間のデザインマネジメントといったハード面に加え、まちづくりの担い手育成や地域デザインプログラムなどのソフト面からもアプローチしています。2024年現在、全国に24拠点があり、それぞれの地域ごとの課題に合わせて活動を展開しています。
UDCすみだについて教えてください
墨田区は、東京23区で唯一大学がなかったため、大学誘致とその拠点を地域発展の柱とすることを目指してきました。その結果、千葉大学とiU情報経営イノベーション専門職大学の二つの大学が墨田区に設置されました。2021年4月には、墨田区が推進する「大学のあるまちづくり」をさらに強力に進めるため、「公」の墨田区とまちづくり公社、「民」の区民や墨田区ゆかりの企業、「学」の千葉大学とiU情報経営イノベーション専門職大学が協力し、全国で23番目のUDCとして「UDCすみだ」が設立されました。
UDCすみだは「墨田区文花・京島地区」を中心に活動を展開しています。「墨田区文花・京島地区」は老朽化が進み安全面で課題のある木造住宅密集地域や、空き家問題があります。それに対して大学の知見を活かし、防災強化や遊休資産の有効活用、都市空間の質向上を目指しています。2021年度には、東京都の「エリアリノベーション推進支援事業」にも採択され、空き家などの活用と再生に関する施策が進められています。
また、最近では千葉大学とiU情報経営イノベーション専門職大学の敷地周辺を都市公園として整備する計画が進行中です。その一環で、新設するトイレのデザイン案を「大学のある街のトイレコンペ」として学生から募集し、最優秀賞が決定しました。2024年度中には、実際にトイレが設置される予定です。
参考 大学のある街のトイレ アイデアコンペ 最終審査結果UDCすみだ
未来ビジョンについて教えてください
UDCすみだでは、墨田区、千葉大学、iU情報経営イノベーション専門職大学、区内の関係団体が一体となり、現在と未来を見据えた計画を進めています。その一環として、国土交通省の官民連携まちなか再生事業として採択され、2023年3月12日に「すみだ 大学のあるまちづくり 未来ビジョン」が策定されました。このビジョンのグランドコンセプトは「キャンパスのようにまちをつくり、まちのようにキャンパスをつかう」であり、10の目標とすみだ100計(100のプロジェクト)で構成されています。行政計画に基づきながらも、クリエイティブなアイデアを提案し、社会環境の変化に柔軟に対応する継続的でフレキシブルな運用を目指しています。
- エリアマネジメント
- 防災強靭化
- 遊休資産の活用
- 産業振興
- 健康づくり
- 市民科学・人材育成
- 環境問題・持続可能性
- 国際都市
- 都市空間の質向上
- 都市型交通手段
なお、すみだ100計の「100」は、墨田区にある「百花園」「百樹園」「すみだ百景」にちなんでおり、具体的な数値目標を指すものではありません。たくさん(100)の多様なプロジェクトを通じて、地域に根ざした活動を展開していくことを意味しています。
墨田区の空き家に対する取り組みを教えてください
墨田区では空き家に対する取り組みとしてイベントが開催されています。例えば、墨田区が主催した「京島さんぽ」というイベントは、リノベーションされた店舗を巡る街歩き形式で行われました。空き家所有者や利活用を検討している方、事業者が参加し、空き家のマッチングも行われました。このようなイベントは、空き家の新たな活用の機会を提供し、再利用を促進するとともに、都市の再生にも貢献していると思います。
墨田区の住民は、大規模な改修を一度に行うのではなく、日常的に修理をしながら家を維持する傾向があります。これは、住民が家を長持ちさせようという意識が高いことの表れであり、その結果、空き家が増えにくくなっています。さらに、耐震性や耐火性に対する意識を高めていけば、地域全体が健全に保たれる環境が作られると思います。
参考 墨田区で開催された空き家の利活用物件ツアーのご報告あんしん解体業者認定協会
すみだアカデミックハウスプロジェクトについて教えてください
墨田区は歴史的な木造住宅が多く、魅力的な地域ですが、リーズナブルな学生寮が不足しており、また建物の耐震性や耐火性にも課題があります。そこで、UDCすみだは「学生が『考え』『作り』『住む』」をスローガンに掲げ、地域の地主の支援を受けて空き家の改修や耐久性に問題がある建物の解体を進める「すみだアカデミックハウスプロジェクト」を実施しています。このプロジェクトでは千葉大学校章のえんじ色、墨田区の「墨」でありiU情報経営イノベーション専門職大学校章の墨色、木造住宅に使われる木の黒茶色の3色をテーマカラーとし、街の景観の整備にも貢献しています。
UDCすみだは、このプロジェクトを通じて、工芸の「金つぎ」のように、古いものや壊れたものに新たな価値を加えることを大切にしています。さらに、「すみだアカデミックハウスプロジェクト」では大学の知見を活かし、材料強度試験を実施して既存の建物の良い部分を残しながら必要に応じて新築を取り入れることで、建物の安全性を確保しています。
また現在、千葉大学の建築学コースの研究室では、宮大工や棟梁の技術をAIロボットで再現する研究が進められており、今後はこの技術を改修に活用する予定です。
現状の改修の課題として、特に長屋の改修は現行の補助金基準に合わないため支援を受けられないプロジェクトが多いという課題もあります。そのため、自治体に補助金制度の見直しを提案しています。
UDCすみだの詳細情報
団体・会社名 | UDCすみだ |
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所在地 | 〒131-0044 東京都墨田区文花1‐19‐1 |
代表者名 | 上野武 |
メールアドレス | info@udcsumida.jp |
営業日 | 平日(月曜日〜金曜日) |
営業時間 | 9:00~17:00 |
公式HP | https://udcsumida.jp/ |