解体工事で発生する産業廃棄物は、業者に処分を依頼します。
しかし、すべての業者がその収集・運搬を行えるわけではありません。
悪質な業者の中には、処分費を抑えるために廃棄物を不法投棄する業者も存在します。
この記事では、悪質な業者による不法投棄の被害を避けるため、産業廃棄物収集運搬許可とマニフェストについて説明していきます。
産業廃棄物収集運搬許可とは
産業廃棄物収集運搬許可とは、産業廃棄物処理法に基づき、産業廃棄物の収集運搬を他者から委託される場合に必要となる許可です。
- 講習会の受講が修了していること
- 経理的基礎があること(経営状況が安定しているか)
- 事業計画を整えていること
- 運搬施設があること
- 欠格事由に該当しないこと(反社会的勢力に属さない等)
事業主が反社会的勢力に属さず、事業者としての実態があり、健全に事業を営んでいるというひとつの指標とも言えます。
産業廃棄物とは
廃棄物は、基本的に産業廃棄物と一般廃棄物の2種類に分類されます。
産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、法令で定められた計20種類を指します。
産業廃棄物を処理する際は、必ず以上の20種類のいずれか、もしくは混合物として排出しなければなりません。
区分 | 種類 |
---|---|
あらゆる事業活動に伴うもの | 1.燃え殻 |
2.汚泥 | |
3.廃油 | |
4.廃酸 | |
5.廃アルカリ | |
6.廃プラスチック類 | |
7.ゴムくず | |
8.金属くず | |
9.ガラス・コンクリート・陶磁器くず | |
10.鉱さい | |
11.がれき類 | |
12.ばいじん | |
排出する業種等が限定されるもの | 13.紙くず |
14.木くず | |
15.繊維くず | |
16.動物系固形不要物 | |
17.動植物性残さ | |
18.動物のふん尿 | |
19.動物の死体 | 20.以上の産業廃棄物を処分するために処理したもので、1~19に該当しないもの(汚泥のコンクリート固形化物など) |
解体業者は一般的に、産業廃棄物収集運搬業の許可を保有する
解体業界を含む建設業界は、昔から多重下請け構造と言われています。
近年は、インターネットの普及によって個人ユーザーから解体業者に直接発注される解体工事が増えました。
しかし、安定した経営を求める解体業者にとって、ハウスメーカーや建設会社といった法人からの下請け工事は、今でも重要な仕事となります。
そのため、ほとんどの解体業者は元請けとしても下請けとしても仕事ができるよう、産業廃棄物収集運搬業の許可を保有しています。
無許可業者に発注する場合の懸念点
- 受注する解体工事は、すべて元請け(下請け仕事は一切しない)
- 産業廃棄物の収集運搬を、すべて委託している
- 資格要件の5つを満たすことができない
これらの3つの理由に対して、それぞれ、懸念すべき点があります。
受注する解体工事は、すべて元請け(下請け仕事は一切しない)
解体工事の発注者と工事元請会社が直接契約し、工事で発生した産業廃棄物を自ら運搬する場合、収集運搬業の許可は必要ありません。
しかし、下請け工事を行っているにも関わらず、無許可で収集運搬を受託している解体業者が存在します。
工事依頼を予定している会社のホームページより、過去の工事実績と関連会社を調べ、本当に下請工事を行っていないかを確認しましょう。
産業廃棄物の収集運搬を、すべて委託している
工事の施行会社が、産業廃棄物の収集運搬を専門会社に委託することも可能です。
この場合の懸念点は、解体費用が高くならないかということです。
基本的に、自社運搬のほうが工事スケジュールの自由度が高く、作業が効率的になるため、工事コストが安価となります。
資格要件の5つを満たすことができない
この場合、経営状態が悪い、事業者としての実態がない、反社会的勢力との関わりがあるかもしれないといった懸念があります。
さらに、不法投棄や雲隠れされるリスクも浮上してきます。
どうしても依頼したい場合、慎重な実態調査が必要です。
マニフェストとは
悪質な業者による産業廃棄物の不法投棄を防止するため、1997年に廃棄物処理法が改正され、廃棄物が適正に処理されたかどうかを確認できる「産業廃棄物管理票(マニフェスト)」の発行が義務付けられました。
マニフェストとは、解体工事などで排出される産業廃棄物がきちんと処理されているか、処理の流れを確認するために作成される書類のことです。
マニフェストには、複写式の紙伝票を利用する「紙マニフェスト」と、紙マニフェストの情報を電子化した「電子マニフェスト」があります。
2020年に廃棄物処理法が改正された際、前年度の産業廃棄物の発生量が50t以上である特別管理産業廃棄物多量排出事業者(PCB廃棄物は含まない)には、電子マニフェストの使用が義務付けらました。
マニフェストの具体的な運用方法
紙マニフェスト
紙マニフェストを用いる場合、基本的に排出事業者・中間処理業者・最終処分場の間で受け渡しが行われます。
電子マニフェスト
電子マニフェストを用いる場合、排出事業者、収集運搬業者、処分業者の3者が情報処理センターを介して、情報登録を行います。
情報処理センターは、廃棄物処理法第13条の2の規定に基づき、環境大臣が指定した「公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター」を指します。
なお、電子マニフェストを利用する際、排出事業者、収集運搬業者、処分業者の3者が事前に加入手続きを行わなければなりません。
マニフェスト票の記載項目
紙マニフェスト
紙マニフェストは、「A票」「B1票」「B2票」「C1票」「C2票」「D表」「E票」からなる7枚複写を指します。
交付年月日・担当者名・排出事業者・廃棄物の種類・数量・運搬業者名・処分業者名などの情報が記載され、7枚それぞれに別の役割があります。
A票 | 排出事業者の控えとして使用します。 |
---|---|
B1票 | 処分業者への運搬終了後、運搬業者の控えとして使用します。 |
B2票 | 処分業者への運搬終了後、運搬業者から排出事業者に返送され、排出事業者が運搬終了を確認するために使用します。 |
C1票 | 処分終了後、処分業者の控えとして使用します。 |
C2票 | 処分終了後、処分業者から運搬業者に返送され、運搬業者が処分終了を確認するために使用します。 |
D票 | 処分終了後、処分業者から排出事業者に返送され、排出事業者が処分終了を確認するために使用します。 |
E票 | 最終処分終了後、処分業者から排出事業者に返送され、排出事業者が最終処分終了を確認するために使用します。 |
最終的には、排出事業者の手元にはA票、B2票、D票、E票が戻ってきます。
また収集運搬業者はB1票とC2票を、中間処理業者はC1票を保管します。
さらに、最終処分場で処分するものがある場合は、中間処理業者が排出業者となって、新たにマニフェストを交付します。
電子マニフェスト
電子マニフェストには、排出事業場・廃棄物の種類・廃棄物の数量・収集運搬業者名・処分業者名などの情報が記載されます。
情報処理センターがマニフェストを保存するため、排出事業者、収集運搬業者、処分業者の3者による保存義務はありません。
このようにマニフェスト制度は、それぞれの場所で全ての処分作業が適正に進められていることを、互いに確認することが可能な仕組みになっているのです。
マニフェストの返送期限と確認義務
紙マニフェスト
紙マニフェストを用いる場合、廃棄物の種類・運搬車・運搬先ごとに作成され、処分後には排出事業者宛ての返送が義務付けられています。
それぞれのマニフェストの返送期限は以下の通りです。
【B2票(積替がある場合はB4票とB6票も)、D票】
交付日から90日以内(特別管理産業廃棄物の場合は60日)に返送される
【E票】
交付日から180日以内に返送される
期限内に返送されない場合、排出事業者は処理業者に問い合わせて処理の状況を把握します。
また、生活環境の保全上の支障の除去または発生の防止のために必要な措置を講じ、30日以内にその講じた措置等を都道府県知事に報告することが義務付けられています。
さらに、マニフェストの交付・回付・送付を行った業者は、それぞれの伝票の送付を受けた日もしくは送付した日から5年間の保存義務も定められています。
電子マニフェスト
電子マニフェストを用いる場合、処分後には情報処理センターに電子情報として登録する必要があります。
電子マニフェストの登録、完了報告期限は以下の通りです。
【排出事業者】
引き渡し日から3日以内に情報登録
【取集運搬業者】
運搬終了日から3日以内に運搬終了報告
【処分業者】
処分終了日から3日以内に情報登録/最終処分終了確認日から3日以内に最終処分終了報告
排出事業者、収集運搬業者、処分業者の3者によるマニフェストの保存義務はありません。
また、情報処理センターが保管している5年分の情報を、常時、確認することができます。
マニフェスト制度の活用方法
繰り返しになりますが、産業廃棄物を処分する際はマニフェスト伝票を発行することが義務付けられています。
言い換えると、廃棄物を適正に処分している業者は必ずマニフェストを発行しているのです。
マニフェストの義務に違反した場合
もし廃棄物処理業者がマニフェストを発行しないなどの義務違反を犯した場合は、以下の罰則の適用を受けます。
また委託業者が不適正処理を行った場合は、排出事業者も委託業者とともに現状復帰など措置命令の対象になります。
委託基準違反 | 5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこの併科 |
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マニフェスト不交付 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
マニフェスト未記載 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
マニフェスト虚偽記載 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
マニフェスト保存義務違反 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
マニフェスト制度違反の勧告の措置命令違反 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
電子マニフェスト虚偽登録 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
悪徳業者から身を守るためのマニフェストの活用法
廃棄物処理業者に産業廃棄物の処分を依頼するときは、前もってマニフェスト伝票の記載・交付ができるかを確認してください。
もしマニフェストの提示を断られたら、マニフェスト義務に違反している業者の可能性があるため、工事は依頼しないほうがいいでしょう。
しかし、中には以下のようにマニフェストの内容を改ざんする悪徳業者も存在するため、マニフェストが提示された場合でも十分に注意が必要です。
産業廃棄物収集運搬許可とマニフェストについてのまとめ
この記事では、産業廃棄物収集運搬許可、無許可業者への発注のリスク、マニフェスト制度とその利用方法について解説しました。
産業廃棄物の悪徳業者にかかると、適切な処理が行われない、余分な費用を取られる可能性が高くなります。
そのような状況を招かないためにも、解体工事の依頼前に産業廃棄物収集運搬許可とマニフェストの提示を求めましょう。
また、解体工事後には提示されたマニフェストと見積書を照らし合わせ、処分料や数量に間違いがないかを確認してください。
さらに、処分業者にも連絡して、どのくらいの量を処分したのかも確かめると、無駄な費用を請求されるなどのトラブルを防ぐことが出来ます。