「お宅の工事のせいで家がキズついたんだけど」
こんなクレームは言われたくありませんよね。
「住宅密集地にある家」や「長屋」の工事は、近隣への工事被害が出やすいです。また、実際に被害はなくとも、工事で敏感になっている近隣の方から誤解を受けるケースも考えられます。
そんな近隣住民からの誤解を回避するためにあるのが、家屋調査です。工事前に近所の家の状態を把握しておくことで、工事が原因で出来たキズなのか正確に判断できます。
そこで、本記事では「家屋調査の基準」や「費用相場」、「業者に家屋調査を依頼されてから家屋調査を行うまでの流れ」などをご紹介します。
解体工事をお考えの方は、ぜひチェックしてみてください。
家屋調査の内容と目的
家屋調査は、解体時に「大きな振動が発生することが予想される」際に必要となります。
主にRC造の建物や、マンション・アパート、ビルなどの解体工事が当てはまります。
木造住宅の解体工事で家屋調査をすることはあまりありませんが、近隣住宅との距離が極端に近い住宅密集地等の工事の場合は、木造住宅であっても調査を行うことがあります。
家屋調査を行う目的はトラブル対策
では、なぜ解体工事前に近隣住宅の家屋調査を行うかと言うと、万が一解体工事後に近隣住民に「解体工事の影響で、家屋に損傷が生じた」と訴えられた場合に、それが本当に今回の解体工事の影響で発生したものなのか否かの確認材料として有効になるためです。
もし訴えを受けた損傷が施主や解体業者には無関係なものであった場合、それを証明できず修復費用を負担することになれば、不本意に余計な出費をする事になってしまいます。
家屋調査は、解体工事前と解体工事後の住宅の状態を比較できる判断材料として、近隣トラブルの際に重要になってくるのです。
家屋調査はどのような調査を行うのか
家屋調査は主に、施工業者ではなく第三者の立場となる民間調査会社、コンサルタントが、2人1組の作業員を派遣して実施されます。
調査内容は建物外部と、調査家屋の住民の許可を得た上で内部も行います。調査結果を収めるため、点検した箇所は撮影し、記録しておきます。
- 調査家屋の全景確認
- 壁や天井の亀裂、隙間、破損、漏水跡の確認
- タイル部分の亀裂、目地(つなぎ目)の状態の確認
- 窓や扉などの建て付け状況の確認
- 柱や床等の傾斜測定
- 基礎や土間部分の状況確認
- 塀、擁壁、門扉等外構の損傷確認、傾斜測定
- 土間部分の亀裂、隙間の確認
- その他現在の家屋の状態確認
家屋調査が必要な基準
近隣の建物が「解体工事の影響をどのくらい受けるのか」を基準に考えてみてください。
隣の建物との距離が近い
解体する建物と隣の建物との距離が近い場合は、「家屋調査をしたほうがいいケース」です。距離が近いということは、その分誤って隣の建物をキズつけてしまうおそれがあるためです。
頑丈かつ大きな建物を解体する
頑丈かつ大きな建物の代表例がビルやマンションです。ビルやマンションは、鉄筋コンクリート造などで頑丈につくられている場合がほとんど。頑丈かつ大きな建物は取り壊す際の振動も大きくなりやすいのが特徴です。
近隣の建物が振動の影響で「ひび割れしていないか」「住宅が傾いてしまっていないか」を確認する目的で家屋調査が行われます。
長屋の切り離し工事である
隣の家と共有している部分を切り離す長屋の解体工事は、通常より難易度が高い工事です。
そのため、工事完了後には隣の家との共有部分、つまり解体せず残しておく部分に異変がないか確認しておきたいところ。
確認の際、事前に家屋調査をしておくと工事前と工事後の状態を正確に判断できます。
工事業者から家屋調査を提案された場合
家屋調査は、工事を行う解体業者から提案されるのが一般的です。
ただし、工事の影響を心配して近隣の住民から「調査をしてほしい」と頼まれる場合もあります。
家屋調査をするか否かの判断は上記に説明のとおりです。
義務ではありませんので、「家屋調査のメリット」と「家屋調査でかかる費用」を考慮して判断しましょう。
家屋調査の費用相場
当協会(あんしん解体業者認定協会)のデータによると、木造住宅を対象とした1件あたりの家屋調査の相場は3万円です。
当然ですが、家屋調査費は、調査を行う建物の件数によって異なります。
何件分家屋調査を依頼するかは、工事を行う「あなた」次第です。判断基準としては、解体現場から「30メートルの範囲内」を基準に考えてみてください。
この30メートルという判断基準は、東京都建設局が監修した「工事に伴う環境調査標準仕様書及び環境調査要領」に記載されてます。
また、家屋調査費は工事を行う住宅の大きさや難易度によっても変動します。
下記、家屋調査費を含む解体工事の見積書をご確認ください。
上記の見積書の家屋調査費は9万円です。写真1枚あたり600円が家屋調査費として計上されています。費用が相場よりも高いのは、通常よりも難易度の高い長屋の切り離し工事であるためです。
なお、見積書には「隣家写真外部のみの場合は65,000円」と記載されています。
これは、家屋調査の中でも建物の外側のみを調査する外部調査を行った場合の値段です。建物の内部も調査する内部調査も行う場合は9万円となります。
解体工事では、建物の外側のほうが工事の影響を受けやすいため工事規模等を加味し「外部調査のみ」を行う場合があります。
条件によって変わる家屋調査費用
調査項目が多ければ多いほど当然費用は高額になってしまいますが、一度に依頼する住宅の軒数が多いほど、1軒あたりの調査費は抑えめになることが多いです。
また、調査対象が一般の住宅であった場合、それぞれの調査に時間と手間がかかってしまいますが、調査の対象がビルやマンション等の建物ですと、共用部分のみの調査しか行わない場合などは金額が低くなります。
逆に言えば調査する部分が多いほど費用がかかるということです。対象の家屋が大きいほど費用は高くなってしまいますので、対象の種類だけでなく、大きさも関係してくるということですね。
依頼する調査会社から現場までの距離が遠ければ、業者側に交通費等かかってしまうため、割高になってしまう可能性もあります。なるべく現場から離れていない場所に建つ会社に依頼するのがベターでしょう。
近隣家屋はどの範囲まで調査すれば良いのか
近隣家屋の調査と言っても、解体工事をする現場からどの程度離れた範囲まで調査すれば良いのでしょうか。これについては、正確に定められた規定はありません。
そもそも、解体工事前の家屋調査も法律などで義務付けられているわけでなく、たとえ激しい振動を起こす可能性の高い建物の解体工事であろうと、「絶対にしなくてはいけない」というわけではないのです。
その為具体的に「どこからどこまでやらなくてはいけない」という決まりがあるわけでもなく、あくまでクレームを受けたときに対処する為の保険と考えたほうが良いでしょう。
この範囲を決めるのは、調査会社ではなく、解体工事の施主と施工業者です。
解体工事が建物の性質などから、解体工事の影響を受けやすい建物を判断し、影響を受ける可能性の高い家屋を調査します。
そして、もしも施主のあなたが「この家屋はもともと古いから、今ある損傷を把握しておいた方がいいかもしれない」「以前に別のことでこの家屋の住民からクレームを受けたことがあるので、注意を払った方がいいかもしれない」と考えた場合などは、それも考慮した範囲を設定したほうが良いでしょう。
家屋調査はもしものときの保険と考え、万が一トラブルになったときをシミュレーションしながら決めることをおすすめします。
実際に起きた近隣トラブルも、家屋調査で防ぐことができた
ここまで読んだ方の中には、「自分の解体工事の影響で他人の家が損傷することなんて本当にあるの?」「虚偽の損傷を訴えてくる人なんているの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。では、実際にあった隣人トラブルの事例を見ていきましょう。
不仲だった隣人に、解体工事と無関係な傷の責任を問われた
「もともと不仲だった隣人が、私の解体工事後に玄関のひび割れを訴えてきました。なんでも、解体工事の振動の影響でこのひび割れが発生したというのです。実際にはそのひび割れはずっと昔にできたもので、 私の工事は関係なかったのですが……」
もともと、この方の家屋と隣家は、共有の塀一枚で隔てられた土地でした。
たしかに、距離の近い家屋は解体工事の影響を受けやすくはありますが、それがわかっていたので、解体業者も最新の注意を払って丁寧な作業を行っていました。にも関わらずクレームが入ってしまった為、解体業者でひび割れを確認したところ、そのひび割れはどうも最近にできた新しいものではなく、解体工事よりはるか前にできた古いものだったことがわかりました。
このとき、事前に隣家の内部を調査していれば、「この傷は以前からありました」と証明する写真や報告書が存在したはずです。例えば隣家の住人が「絶対にこれは解体工事のせいでできた」と訴えてきたとしても、法的な判断材料として有効になるのです。
解体業者と近隣住民が揉め、板挟みになった施主が修復を
「近隣住人から解体工事の影響でコンクリートの床にヒビが入ったと言われました。すぐに解体業者に連絡しましたが、解体業者の方も主張は『そんなはずはない』の一点張り。費用も支払ったあとで、ろくに調査もしてもらえませんでした。結局、どちらの言っていることが真実かわからず、板挟みになった私が修復費用を負担することに……」
対応のしっかりしている業者であれば、当然、解体工事後にこのようなクレームの対応もしてくれるはずですが、中にはもう終わった案件として、まともに対応してもらえないということもあります。
近隣住人に悪意があるわけではなく、実際にそうでなくても住人の方では本当に工事の影響で損傷が起こったと思っていることもあります。普段注意深く見ないコンクリート部分を「解体工事の影響でひび割れが起こることがある」という先入観から、「これは解体工事でできたものに違いない」と勘違いしてしまうのです。
解体業者の方では、施工中注意もしていたし、絶対にそんなはずはないと思っているので、施主は双方の食い違う意見を聞かされるのみ。自体の収束のためには、自分が費用を負担して納得してもらうしかないと判断したのです。
もしもこのとき、事前に家屋調査を行っていれば、そのヒビも写真で記録され、事前にあったものかどうかを判断できたはずです。
もしも解体業者が対応してくれなかったとしても、家屋調査は別の会社に依頼しているはずですので、調査会社に直接連絡をし、調査結果を入手できることができますから、自分から近隣住人に対し調査結果を「証拠」として見せることもできました。
双方の意見を聞くだけではらちがあかなかった問題も、解体工事前にどうだったかを証明するものがあるだけで解決できるのです。
トラブルは余計な出費を増やすことになってしまう
解体工事は、それだけで高額な費用が発生することですから、余計な出費を増やしたくはないですよね。
解体工事後にトラブルが生まれてしまえば、工事費用にプラスする形で修繕費用等や、裁判になれば弁護士等の費用もかかることになってしまいます。
家屋調査はもちろん義務ではありませんし、「もしもの保険にお金をかけるのは……」と思われるかもしれませんが、万が一大きなトラブルが起きてしまった時のことを考えれば、その時にかかる費用に比べて家屋調査の費用はかなり抑えめだとわかるはずです。
家屋調査の費用も決して低いものではありませんが、トラブルの対策費用として考えてみてはいかがでしょうか。
業者に家屋調査を依頼されてから家屋調査を行うまでの流れ
一般的な家屋調査は、下記の1?8の順に行われます。
1.工事業者が家屋調査について提案
提案された場合は、解体工事の見積書に「家屋調査費としていくら計上されているか」金額を確認しましょう。
2.工事の依頼主が家屋調査を承諾
家屋調査を行うのは、解体業者ではなく第三者である民間の調査会社です。提案を受ける場合は、解体業者が指定した調査会社が家屋調査を行います。自分で調査会社を選びたい方は注意しましょう。
なお、家屋調査費には交通費も含まれます。つまり、家屋調査の対象となる物件が調査会社から近いほど交通費分がカットされるということです。自分で調査会社を選びたい方は参考にしてみてください。
3.工事業者が家屋調査の対象となる家の住人に家屋調査について説明
家屋調査について、解体業者が工事の近隣挨拶時に説明します。解体業者を経由せず直接、調査会社に依頼した場合は自分たちで住人に説明します。
4.調査会社が調査をする物件の住人に連絡→調査日を決定
家屋調査時に対応するのは、工事の依頼主ではなく調査をする物件の住人です。そのため、調査会社は調査が可能な日を住人に確認する必要があります。
5.調査会社と解体業者で調査範囲について打ち合わせ
直接、工事の依頼主が調査会社に依頼した場合は依頼主が対応します。
6.家屋調査
家屋調査では、調査会社の作業員が下記のような工事で影響が出そうな場所を点検したうえで、写真撮影をします。
- 家屋の全景
- 内壁や天井の亀裂
- 内壁と柱の隙間
- 天井と壁の境目にある廻り縁(まわりぶち)などの隙間
- タイル張り部分の亀裂及び目地の状態
- 柱、床、敷居、塀などの1メートルあたりの傾斜
- 建具の建て付け状況
- 外壁モルタル、タイル布基礎などの亀裂及び隙間
- 屋根や軒裏
- 塀や擁壁
- ガレージの土間や階段
所要時間は、1件あたり1?2時間程度。事前に調査範囲について打ち合わせをしているため、解体業者や工事の依頼主の立ち会いは不要です。調査対象の物件の住人が対応します。
なお、住人が点検してほしくない、見られたくない箇所は調査を断ることも可能です。ただし、点検をしていない箇所は工事後に亀裂等が発生した場合でも住人は工事業者から損害賠償を受けられないおそれがあります。
7.調査会社が解体業者に調査箇所の写真を提出
写真を受け取るのは、調査を依頼した発注者です。解体工事後、クレーム等があった場合に使用します。
8.解体工事後、異変が見つかった場合は事後調査
家屋調査を受けた住人から「異常がある」等の報告を受けた場合は、事後調査をしましょう。なお、家屋調査費は事後調査でも発生します。
解体工事の家屋調査の基準についてのまとめ
本記事では、「家屋調査の基準」や「費用相場」、「業者に家屋調査を依頼されてから家屋調査を行うまでの流れ」などをご紹介しました。
ご紹介した家屋調査は、解体工事工事後に発生する近隣住民からのクレームに備える保険のようなものです。
工事トラブルが心配な方は、ぜひ家屋調査を検討してみてください。