本記事では、日本の伝統的な建物である長屋の切り離しについて、必要な準備や注意点、業者選びのポイントについて解説していきます。
かつて下町を中心に建てられた長屋は、今でも京都や大阪などの一部エリアでその姿を見かけることは珍しくありません。時代の流れと共に、長屋の一部を切り離す工事のニーズは高まっています。
特殊な建築様式である長屋の切り離しは、トラブルの多い工事であることも事実です。
しかし、正しい知識を持って臨むことで、トラブルを未然に防ぐことが出来ますので、ご安心ください。
長屋の切り離しに必要なこと
長屋は、玄関や階段・廊下などを共有しない複数の住宅が、横並びに連続している建物のことを指します。
通常の一軒家との大きな違いは、二つあります。
ひとつ目は、複数の住宅が、一繋がりになっている屋根を共有していること。
二つ目は、一枚の内壁を、隣接する2戸の住宅で共有していることにあります。
取り壊しを希望する住宅側の都合だけでは済まない問題があるため、長屋の切り離しならではのトラブルや追加費用が生じることがあります。
トラブルを防ぐためにどのようなことが必要なのか、ポイントを押さえて準備していきましょう。
他の住民の合意を得る
長屋の切り離し解体では、「区分所有法」に違反しないよう所有者の4分の3以上から同意を得る必要があります。
また、長屋の切り離し解体では、隣接する住戸の所有者以外からも同意を得なくてはならない場合があります。
隣接する住戸の所有者だけでは長屋の切り離し解体に同意する所有者が4分の3以上とならない場合は、ほかの所有者からも同意を得る必要があります。
建物の一部を切り離すことにより、建物全体の強度が下がる等のトラブルが生じる可能性があるため、工事に対して不安を抱える他の住民の合意を得るには、納得できるよう出来る限り丁寧な説明をすることが大切です。
また、切り離しが原因で、残された住宅に傾きやヒビ割れなどの不具合が生じたなどという、事後クレームを避けるための対策も必要です。
隣の住宅の傾きを事前に計測したり、ヒビ割れなどの気になる箇所は事前に写真に収めておきましょう。さらに、合意を得られた際は、口約束ではなく書面に残すことをオススメします。
合意が得られたら、依頼主は工事が全て終了するまで責任を持って対応することもマナーです。
トラブルなく工事が完了するよう細心の注意を払い、何か予期せぬ問題が起きた場合は他の住人に迷惑がかからないよう迅速に対処することが、スムーズに工事を進めるためのポイントです。
合意がなかなか得られない場合
一度の説明では住民の合意が得られない場合もあります。
ですが、根気強く丁寧な交渉を重ねることで、合意を得られることがほとんどです。専門家に事前調査をお願いして、調査結果と共に工事が無事に終えられることが説明できるようにしましょう。長屋切り離しの実績が豊富な業者に依頼をする旨を示すことも、合意を得るためには有効です。
金銭が絡み事態が複雑化した場合などは、弁護士に相談した方が良いでしょう。
隣接する住宅の外壁の補修
長屋は、一枚の内壁を2戸の住宅が共有している構造です。そのため、残される方の住居側に壁を残して切り離しを行います。
今までは隣接する住宅にとって内壁だった壁が、切り離し後は外壁となるので、外壁の補修工事をする必要があります。
この時に撤去する側は、隣家の外壁を、耐震性や防火性、防水性などに関して、切り離す前と同程度の状態にする義務があります。
その際、費用は工事する側が負担するのが一般的です。
長屋の切り離しにおける外壁の補修工事がどのようなものなのかは、なかなかイメージが湧きづらいと思います。以下の写真を参考になさってください。
外壁補修工事中の写真
補修工事後の写真
外壁補修の素材にはいくつか種類があり、それぞれの素材にメリットとデメリットがあります。主な外壁補修の素材は、トタン外壁・モルタル外壁・サイディング外壁・ALC外壁で、強度や価格は異なります。
どの素材を使用するかは隣家との話し合いで決定していきますが、金額で折り合いがつかないケースも珍しくありません。
この場合、工事を行う側の責任範囲は、あくまでも切り離す前と同程度です。隣家が必要以上に高価な素材を使いたがっている場合など、責任範囲を超える金額を要求された際は、その分は隣家が負担することになります。
話し合いの際は、金銭トラブルにならないよう、予め知っておきましょう。実際の見積書がございますので、参考になさってください。
トタン外壁補修の見積書
サイディング外壁補修の見積書
長屋切り離しは重機の使用が難しい
構造上、隣家との共有部分が多い長屋切り離しは、通常の一軒家に比べて費用が高額になります。
通常の一軒家の工事は、重機を使用した作業がメインとなるため、木造ならば工期は一週間ほどです。
しかし、長屋の場合は、共有している柱などの切り離しに重機を使用できないため、手作業での取り壊しが必要になります。
手作業で隣家との切り離しが完了した後に、重機の利用が可能な工事内容のみ重機を使用していきます。
手作業では、手間がかかるため工期が長引きます。
その分の人件費が余分にかかるので、おおよその金額は一般住宅の1.5倍程と考えておいて良いでしょう。
同じ木造住宅でも、一般住宅と長屋では金額が全く異なります。見積りを取る際は、長屋であることを業者に必ず伝えましょう。
老朽化して切り離せない場合
長屋の場合は、老朽化していると切り離しを物理上の都合で行えないことがあります。
例えば、3軒続きの長屋で、中央の住宅の切り離しを希望していた場合、中央の住宅を切り離すと隣の2軒が崩れてしまう恐れがある場合などです。
解決策としては、中央の住宅を切り離してから、棒を支えに補強が可能なケースもあります。
ただし、隣家の理解が得られずトラブルが発生することも考えられます。
長屋の切り離しにおいては他の住人の合意が必要ですから、工事後の安全性について、隣家の住人の不安を払拭出来るように丁寧に説明しましょう。
必要ならば、専門家に調査をしてもらい、その結果を元に安全性を立証するなど、根拠を示すことも大切です。
長屋の切り離しにおける業者の選び方
トラブルの多い長屋の切り離しをスムーズに終えるためには、工事を依頼する業者選びも大切なポイントになります。
どのような業者を選べば良いのか、下記を参考になさってください。
自分への対応が丁寧
隣家を含む近隣住人とのトラブルを避けるため、業者の方が、丁寧な挨拶や工事に関する十分な説明ができることが必須です。
工事を依頼する業者が隣家の住人に対して丁寧な対応をするかどうかは、ご自身に対して親切丁寧な対応をしてくれるかどうかでもある程度の判断は出来ます。
お客さんである自分に対して、きちんとした挨拶や説明があるか見てみましょう。
近隣住人への対応が悪い業者も多く存在するので、ご注意下さい。
長屋切り離しの施工件数が豊富かどうか
長屋の切り離しには、熟練の技術が必要です。
依頼を検討している業者が、長屋の切り離しをどのくらい請け負ってきたか、聞いてみましょう。
今までどのくらい長屋の切り離しをしたか、と直接聞きづらい場合は「長屋の切り離しは特殊な工事だと聞いたので不安です」等と話してみましょう。
業者から「この地区は長屋が多くて、うちは長屋の切り離しを何十年もやっているので慣れてますよ」等の返答がきたら安心です。
また、特に難易度が高いと言われているのが2階建ての長屋切り離しです。
補強を入れながら切り離しを行うケースもあり、建物の構造に関する知識を持って適切な工事を行わないと、隣家に被害が及び大きなトラブルになることもあります。
実際に業者の方と話をすることで、切り離しの経験の豊富さを見極めることが出来ます。経験が豊富な業者に依頼することも、業者選びのポイントになります。
馴染みのある大工や工務店がいるかどうか
長屋の切り離しは、単に建物を壊すだけではありません。切り離しを行った後に外壁の補修を行うため、補修工事の経験も必要になります。
しかし、通常の業者は補修工事を行うことができないため、外壁補修は大工や工務店に依頼することになります。
業者と大工・工務店との付き合いの深さによって、外壁補修の金額に差がでることがあります。
大工・工務店と付き合いがない業者の場合、単に補修工事を外注することになります。馴染みのある大工・工務店がいる業者に依頼した場合は、費用が安くなる可能性があります。
見積りを依頼する際に「工事だけでなく外壁補修も頼みたいのですが出来ますか?」などど質問をしてみましょう。答えが単純に「対応できます」といった場合は外注することが考えられます。
「昔から仲良くしている工務店がいるので大丈夫ですよ」といった詳細な返答があった場合は、補修工事が安くなる可能性があります。
長屋の切り離し解体の総額を抑えるためには、補修工事を少しでも安くすることが大切です。見積りの際には、馴染みのある大工・工務店がいるか、それとなく聞いてみましょう。
- 挨拶や説明の対応が丁寧かどうか
- 長屋への施工経験は豊富か
- 付き合いのある大工や工務店があるか
長屋の切り離しについてのまとめ
一般住宅と構造上の違いが多い長屋の切り離しは、隣家とのトラブルがつきものです。費用面でも、一般住宅では費用項目に挙がらない、隣家の外壁補修が発生します。
隣家が抱える様々な不安を払拭し、トラブルを起こさないためにも、工事を行う側は最後まで丁寧な対応を忘れてはいけません。
また、難易度が高く熟練の技を必要とする長屋の切り離しですから、業者選びも重要です。
まずは実績の豊富な業者を探して、見積りをお願いすると同時に、不安な点を相談してみましょう。安心して任せられる業者が見つかったら、依頼をしましょう。
どの業者に依頼をしたら良いのか分からない場合は、当協会が運営する『解体無料見積ガイド』をご活用ください。
審査基準をクリアした優良な業者の中から、長屋切り離しの実績が豊富な業者や、大工・工務店とのお付き合いがある業者を、無料でご紹介させていただきます。
お見積り後のキャンセルも、当協会が業者への断りの連絡を代行しますので、お気軽にご利用ください。
長屋の切り離しは特殊な工事ではありますが、本記事でご紹介してきた必要なポイントを押さえて、対策をしっかりと行えば、円滑に進めることができます。実際に日本各地で長屋の切り離しは行われておりますので、ご安心ください。