賃貸物件の返却にともなって原状回復をしたいけど、普段なじみがなくてよく分からない、という方は少なくありません。
この記事では、アパートなど住居の場合と、オフィス・店舗の場合の2パターンに分けて、用語の解説や原状回復の範囲、費用負担の割合などについて詳しく解説しています。
ぜひ参考にして、物件のスムーズな返却にお役立てください。
原状回復とは
原状回復とは、賃貸物件の退去時に「契約した当時の状態に戻すこと」を指します。
賃貸物件を借りる際、借主には消耗した部分を元に戻してから返却するという「原状回復義務」が発生します。
一般的には経年劣化、および通常の使用で生じるような損耗については借主が負担する必要はありません。 故意や過失によって生じたキズや汚れ、損傷などに対しては、借主が負担しなければなりません。
「原状回復」と「原状復帰」の違い
「原状回復」と「原状復帰」は基本的に同じ意味合いで使われます。
ただし、「原状回復」は一般的に法律用語として使われる傾向が強いです。そのため、不動産関連や賃貸取引などの場面でよく見かけます。
一方、「原状復帰」は建設業界で使われる傾向が強いです。
また、原状回復を含めた復帰作業の全体を指して「原状復帰」と呼ばれることもあります。
「原状回復」と「スケルトン解体」の違い
基本的に原状回復は、賃貸した物件の回復作業にともなう行為です。
そのため、柱や梁といった建物の構造以外の部分を撤去するような、「スケルトン解体」とは異なります。
スケルトン解体は、間取りの変更や店舗の改装、建物の耐震性を向上させるような工事内容の際に行います。
躯体を利用して環境を改善することができるので、建て替えるよりも工期や費用を抑えたい、といった場合に用いられます。
アパートなど住居の原状回復について
アパートなどの場合は、原状回復にともなう修繕費用のうち、借主の負担分については基本的に入居時に支払った敷金があてられます。
ただし、敷金だけで修繕費がまかなえない時は、差額の追加費用を負担しなければなりません。
負担する範囲についてはトラブルの要因にもなるので、契約の際には書面に負担する内容を記載したうえで、双方が確認をしてから契約を締結します。
借主が原状回復費用を負担するケース
主に原因が故意や過失によって生じたキズ、汚れなどは借主の負担になります。
そのほか、掃除を怠ったことで落ちなくなった汚れやカビなども対象です。
- フローリングや畳、壁のキズや汚れ
- 落書き
- タバコのヤニ汚れ
- カビや水垢
- キッチンの油汚れ
借主が原状回復費用を負担しないケース
通常の生活をしていれば避けられない、自然的に発生してしまうシミや日焼け跡、画びょうの穴などは貸主側の負担になります。
そのほか、故意や過失ではないフローリングワックスの自然な剥がれや、家具の重みで出来た凹みなども、借主の負担にはなりません。
- 家具や家電を置いたことで出来たシミ
- 畳や壁紙の日焼け
- 画びょうの穴
原状回復費用の負担割合や計算方法
原状回復に必要な修繕費は、借りている期間が長いほど借主の負担が少なくなるように考慮して計算するのが一般的です。
具体的に、国土交通省が定めるガイドラインでは、対象となる資産の耐用年数と経過年数に応じて負担の割合を決めるのが良いとされています。
例えば、借主が壁紙を故意に汚してしまい、クロスの修繕費用が10万円掛かったとします。さらに、クロスの耐用年数が8年で、かつ借主は2年間入居していたとすると、6年分の7万5,000円が借主の負担すべき原状回復の費用となります。
ただし、賃貸契約には「契約自由」の原則があり、ガイドラインの要件を充たす場合は特約を定めることが可能です。
そのため、タバコなどを吸って壁紙の交換が必要になった場合には、張り替えの費用を借主に全額負担させるような契約を結ぶことができます。
このように、具体的な指標はありますが、負担割合については基本的に契約書の内容が優先されるので注意が必要です。
オフィスや店舗の原状回復について
オフィスや店舗の場合は、特殊な設備を使用していたり、間取りを一時的に変えていたりすることがあります。そのため、必要な原状回復の修繕が増え、工事の規模も大きくな可能性があります。
オフィスの原状回復の方法と特徴
オフィスや店舗は、賃貸契約の際に原状回復について特約が設けられている場合が多いです。内容によっては、借主が全額費用を負担しなければならないケースも少なくありません。
また、原状回復では備え付けになっているテーブルや椅子はもちろん、増設したドアや間取りを変えるために設置した間仕切りなども撤去が必要です。
行っている業態にもよりますが、床やタイルの張り替え、電気関係や水回りの修繕など、漏れなく入居する前の状態に戻すようにしましょう。
原状回復費用が高額になるケース
規模が大きければそれだけ工事の施工範囲が広くなるので、回復費用も高くなる傾向がありますが、掃除を全くせずに退去してしまうと、さらに清掃やクリーニングで費用が高額になる恐れがあります。
特に、業態が飲食店だった場合は、油汚れや臭いが簡単に落ちないことも多いです。
念入りな清掃が必要になるケースもあるので引き渡しには余裕を持って取り組んでください。
原状回復費用の削減方法
原状回復では、貸主側に見積りを全て任せるのではなく、ご自身でも交渉の余地がないか検討してみるのが大切です。
まずは契約の内容を確認して、そのうえでより安い業者を提案できないか、相場に対して適正な価格かどうか、といった点を見極められるようにしましょう。
ぜひ余裕がある方は、可能な範囲でご自身でも取り組んでみてください。
工事範囲の明確化
オフィスや店舗の原状回復では費用を全て借主側が負担する、といった内容の契約になっている場合が非常に多いです。
「経年劣化」や「通常損耗」といった文言で、自然的に発生する部分の修復に関しても借主が負担する契約になっていないか、事前にご自身の契約内容を確認しておきましょう。
また、設備によっては物件の価値がプラスになるような場合もあります。
交渉次第で原状回復を免れることができるケースもあるので、前もって貸主側に相談してみてください。
下請けや孫請け業者を避ける
原状回復にあたる業者を選ぶ時は、下請けや孫請けの業者を使ってしまうと余分な中間マージンが発生してしまう恐れがあるのでご注意ください。
また、貸主側で施工業者を手配するような段取りになっている場合は、事前に見積りを依頼して交渉できないかも視野にいれておきましょう。
工事の相場観を把握する
工事の見積りは、なるべく複数の業者から取って比較できるようにしてください。
1社だけでは相場が分からないので、可能であれば3社くらいに依頼して現地調査をしてもらいましょう。
原状回復に必要な工事については、適正価格で行ってもらえるように意識して取り組むことが重要です。
原状回復に関するまとめ
この記事では原状回復について、用語の解説や負担の割合などを詳しくご紹介しました。
また、一般的な賃貸物件とは異なり、オフィスや店舗などは規模が大きく原状回復に必要な修繕が多くなる傾向があることもご理解いただけたと思います。
しかしながら、原状回復は費用と手間が掛かりますし、注意すべき点もいくつかありました。
ぜひ、返却の期日に間に合うよう余裕を持って取り組まれてください。
まずはご自身の契約書内容を確認して、施工範囲がどこまでなのか把握してみましょう。